最近はワイヤレスでも音質が良いと言われるイヤホン(ヘッドホンも)が増えてきていますが、個人的には有線のイヤホンと比べると、やっぱり今でもワイヤレスは音質が劣っていると感じるものが多いです。
音質の違いの理由をネットで調べると
・ワイヤレスはデータを圧縮しているから音質が悪い
・Bluetoothのサンプリングレート・ビットレートに限界があるから音質が悪い
という解説がほとんどです。
しかし、私はワイヤレスの音質が劣る理由はデータの圧縮やビットレートが原因ではないと思います。
というのも、最近のワイヤレスはサンプリングレートもビットレートも普通に聴いている分には区別が付かないくらいの設定のものを使っていることが多いからです。
では、ワイヤレスの音質が劣っていることが多い理由は何というと、それは単純に
コスト
の問題だと思っています。
一般的に、ワイヤレスのイヤホンは、ドライバー(音を出す心臓部)以外にも、DAC(デジタルの信号をアナログに変換するための装置)、ワイヤレスの信号を受信するためにレシーバー、バッテリーなど、有線のイヤホンでは不要な様々な部品を搭載する必要があります。
しかもイヤホンの場合には、左右のそれぞれのイヤホンに部品を搭載する必要があるので、DACも2個必要、レシーバーも2個必要、バッテリーも2個必要・・・と部品代だけでかなりのコストがかかっています。
これに対し、有線のイヤホンは、オーディオインターフェイスやスマホの内部にあるDACで既に変換されたアナロの信号をドライバーで音声に変換するだけなので、作りとしては比較的シンプルで製造コストは低くて済みます。
そのため、有線の場合はドライバー(音を出す心臓部)に高い部品を使って品質を維持することが可能なのだと思います。
同じくらいの価格帯のワイヤレスと有線のイヤホンを比較すると、ワイヤレスはどうしてもドライバーのコストカットをせざるを得ないという事情があり、ワイヤレスのほうが音質が劣ることが多い(イヤホンとして音を出す部品にそれ程コストをかけることができない)ということだと思います。
いくつか有線とワイヤレスのイヤホンを比べてみても、2万円前後のワイヤレスイヤホンの音質は、1万円以下の有線のイヤホン程度しかない、ということも良くあります。
そうすると「価格の高いワイヤレスのイヤホンを買えば良いのではないか」と考えるところですが、今度はコストの問題だけでなくイヤホンの大きさの制約もあるように思われます。
有線のイヤホンの場合、DAC(デジタルの信号をアナログに変換するための装置)はオーディオインターフェイスやスマホに内蔵されいるものを使うため、イヤホンの中にDACを埋め込む必要はありません。
他方でワイヤレスの場合には、PCやスマホからデジタルの信号を無線でイヤホンに送り、イヤホンの内部でデジタルの信号をアナログに変換する必要があるため、イヤホンの中にDACを埋め込む必要があります。
そして、ワイヤレスのイヤホンはサイズが大きくなったり重くなったりすると付け心地に影響があるため、DACは、コンパクトで軽い部品にする必要があります。
DACのチップ自体はそれ程大きいものではないのですが、それでも小さいイヤホンの中に埋め込むとなると技術上の制約から使える製品の範囲が限られてくると思われます。
なので、価格が高いワイヤレスのイヤホンであっても、中に入っているDACが大きさの制約で性能がいまいちということもあり、最終的にイヤホンのドライバーから出てくる音は微妙になったりするケースもあるのだと思います。
- ◆それでも「ワイヤレスのほうが音が良いんだけど」という場合
ただ、ワイヤレスのほうが音質が劣るというのは一般論であって、人によっては「有線よりもワイヤレスのほうが音が良いんだ」という人もいると思います。
その理由はいくつかあると思うのですが、1つは有線のイヤホンを繋いでいるDACの品質が良くない場合には、イヤホンには質が悪いアナログ信号が届けられることになるので、有線でも結果的に音は悪くなります。
iPhoneなど比較的良質なDACが搭載されているスマホに有線のイヤホンを繋いでいる時には問題はならないのですが、一般的な家庭用のPCや格安スマホに有線のイヤホンを繋ぐと「音が悪い」と感じることがあります。
その他に「有線よりもワイヤレスのほうが音が良い」と感じる理由として考えられるのは、「音の良い悪いの基準が人によって異なる」からだと思います。
普段から楽器を弾いたり音楽を作っている人や、プロのエンジニアの方が「音が良い」という場合、「音の解像度や分離感が良い」「音の距離感が良い」という意味のことが多いです。
でも、普段から音楽の関わっている人以外はこの「音の解像度・分離感・距離感」などの良し悪しを判断するのは難しいことが多いです。
私も楽器を弾く前やDTMでミックスをするようになる前(学生の頃)は「音の解像度・分離感・距離感」などの意味はよく分かっていませんでした。
「音の解像度が高い」というこは「それまで聴いたことがない音が聞こえる」ということなので、実際の楽器の生の音や性能の良い機材で音を繰り返し聞くという経験がないと、解像度等の善し悪しの判断は難しいと思います。
では、普通の人どのような場合に「音が良い」と感じることが多いかというと、周波数特性が特徴的なイヤホンを「音が良い」と感じることが多いようです。
周波数特性というのは、ざっくりと言うと「高音の一部の帯域の音が強くて煌びやかに聞こえるとか」とか「低音が響いて迫力がある」というような音の特徴のことです。
イヤホンのレビューを見ていても
「低音が迫力があって良い」 ⇔ 「低音が聞こえないから悪い」
「高音が良く伸びていて艶がある」 ⇔ 「音がこもって聞こえる」
というようなコメントが良くあると思いますが、こういったコメントの多くは周波数特性が自分の好みに合う・合わないの話をしていることが多いように思われます。
この周波数特性は、それほどコストをかけなくても特徴を持たせやすいため、低価格帯のイヤホンでは、「低音に迫力がある」とか「ボーカルに艶がある」といったキャッチコピーを付けたりして、極端な周波数特性にしていることが多いです。
食べ物で例えると、ラーメン屋さんが安い価格でも美味しいと思ってもらえるように化学調味料を多めに入れて1口食べただけで脳天に激しい衝撃が突き抜けるような濃い目の味付けをしていることがありますが(私はそういうラーメンが大好きです)、ワイヤレスのイヤホンもコストの問題をクリアするために癖になるような周波数特性を持たせているものは良くあります。
他方で、有名な料亭のベテランの料理人が作った「素材を味を活かした料理」であっても「なんか味が薄いな・・・」という感じで素人には良さが良く分からないこともあると思いますが、3万円以上するプロユースのモニターヘッドホンでも普通の人が聴くと「普通の音」「こもっている」「低音が弱い」「何が良いのかさっぱり分からん」と感じることはあると思います。
なので、使っているPC・スマホのDACの品質や、聴く人の耳の状態によっては、「ワイヤレスのほうが音が好き」ということは十分にあり得るとは思いますし、ワイヤレスのイヤホンで特に不満がないという人は敢えて有線のイヤホンに拘る必要はないと思います。
ワイヤレスイヤホンの良いところは、ケーブルによる場所的な制約から解放されるところです。
外で音を聴く時はワイヤレスのほうが圧倒的に便利ですし、車などの雑音が多い外で音楽を聴く分にはそんなに音質に拘る必要性もあまりありません。
自宅でもワイヤレスイヤホンだと掃除機などの音に負けず家事をしながら音楽が聴けるので、そういった意味ではワイヤレスは有線には無い便利さがあると思います。
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